巻頭言

佐藤 和郎

新型コロナウイルス感染症の勢いが鎮まりを見せません。

重症患者受入れの病院をはじめ各医療機関には様々のご苦労がおありと思います。今年初めからの新型コロナのことを思い返しながら雑感を記します。

1月中国武漢発SARS類似の新型肺炎が猛威を振るっているとの報道があり、その後イタリア、米国を始め世界中に拡がりました。欧米各国は直ぐ様入国制限をかけたのに、日本ではのろい動きでした。

私は近年JR名古屋高島屋に出掛けると、そこにインバウンドの中国人が溢れ返っているのに驚いたものでした。折しも春節(中国の旧正月の祝日)の時期が近づいており、更に中国人が満ち溢れてまずい事になるのではと危惧していました。しかし、政府は武漢よりの入国制限をしただけで全面的な入国禁止の措置をとりません。中国の習近平国家主席の国賓としての来日や東京オリンピック開催が念頭にあり、思い切った行動が取れなかったのでしょう。

ところが春節に中国人がわんさか日本を訪れても、患者数は思った程増えなかった様です。

「うちの国は国民の民度のレベルが違う。」新型コロナウイルスの死者が少ない理由について麻生太郎財務相が国会で語ったことば。欧米に比して人口100万人当りの死者数は2桁少ないものの、東南アジア諸国では日本よりもっと少ない国も多い訳です。あまり説明になっていません。山中伸弥教授によると、「徹底的な検査に基づく感染者の同定と隔離や社会全体の活動縮小の対策が日本では他の国と比べると緩やかだった。にもかかわらず欧米諸国より感染者や死亡者の数は欧米より少なくて済んでいる。何か理由があるはず」と考えて、それをファクターXと呼んでいます。

私が一番腑に落ちる説は京都大学の上久保靖彦特定教授らによる発表です。「日本人には新型コロナウイルスの免疫があったので死者数を抑え込むことができた。」という説です。

新型コロナウイルスにはS型、K型、G型の3つの型があり最初に

S型ができ、それが変異したK型と武漢でさらに変異した強感染力のG型という。昨シーズン日本でインフルエンザが少なかったのは、実は日本人が早期に新型コロナウイルスに感染したため、ウイルス競合あるいはウイルス干渉によるものだそうです。

以下はこのウイルス感染に関する説明です。

先駆け(sakigake,S)であるS型は、無症候性も多い弱毒性でインフルエンザに対するウイルス干渉も弱かった。S型から変異したK型は、無症候性~軽症で、中国における感染症サーベイランスでは感知されず蔓延したが、日本のインフルエンザ流行曲線が大きく欠ける(kakeru,K)ほど、K型ウイルスの流入が認められた。武漢において更に変異した武漢G型(typeG,global)は重症の肺炎を起こす。上海で変異したG型は、最初イタリアに拡がり、その後欧州と米国で流行した(欧米G型)。日本政府の入国制限は、3月9日迄は武漢からに限られていたためS型、K型は中国全土から日本に流入し多くの日本人が感染した。その結果、ある程度の集団免疫が成立していたものの強感染力のG型の日本での流行が起こった。

一方、アメリカやイタリアなどの欧米諸国は、中国からの渡航を日本より1ケ月以上早い2月初旬から全面的に制限したため、K型の流入は大幅に防がれた。それ以前S型が拡がっていた時期には渡航制限は無く、S型は欧米に蔓延した。S型に対する免疫はG型の感染に対抗する能力に乏しく、その上S型への免疫には抗体依存性感染増強(ADE)という悪い作用があることが推測される。ADEにより患者の急変が起こる。S型への抗体によるADEとK型への細胞性免疫を獲得できなかったことで、欧米ではG型感染の重症化が起こり、致死率が増加した。日本では武漢以外の地域からの入国制限開始が遅れたため、K型への集団免疫ができ、感染毒性の強いG型の感染を大幅に抑えることができた。

この説によると、入国制限の遅れが却って感染拡大を抑える結果になったと考えられます。今はJR名古屋高島屋ばかりでなく、街中で中国人の姿を見かける事は殆どありません。何だかかつての賑いが懐かしい様な気がします。何はともあれ新型コロナウイルス感染が早く鎮まり、元の生活に戻ることを願うばかりです。

(2020年9月記)

会報 第118号のサムネイル